ちいさなねずみが映画を語る

すきなものを好きなだけ、観たものを観ただけ—

ふわっと小ネタと音楽を解説 - 映画『ボヘミアン・ラプソディ』

ブログ開設以来書き続けてきたボラプの話も今回で終わりである。多分

 

(と言っていたら、また書きすぎたので、もう1記事出ます)

 

というわけで、最後にどうでもいい小ネタや音楽の話を書き綴りたいと思う。例によって独断と偏見だし、ナチュラルにネタバレるのでご注意いただきたい。もう一度繰り返しておくが、ひとつ前の記事で書いた通り、筆者はわりとにわかファンなのでその辺はご了承いただきたい。

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!!! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! !!!

 

 

小ネタ雑記

1.『今日は一日"クイーン"三昧』

この映画公開に合わせてNHK FMでは、11月11日に『今日は一日"クイーン"三昧』と銘打った10時間の生放送番組が放送されている。これの冒頭をちょっと聞きかじっていくのがとても良かった。特に最初の1時間ほどは、「ミュージック・ライフ」元編集長の東郷かおる子氏が出演し、クイーンの結成直前からライヴ・エイドに至るまでの流れがざっくり解説されているのでにわかファンには有り難い作りだった。

 

ブライアン・メイの愛器レッド・スペシャルについても特集されていたし、和久井光司氏が中心となって、メンバー全員の曲作りに焦点が当てられたりとなかなか充実している(10時間もあるのでそりゃそうか)。そう言えばNHKだとSONGSクロ限プラスで消化不良になった人が随分多いようだが、こっちを聴けば良かったんじゃないかと思う。

 

えっ?まだ聴き終わってない話とか、公共交通機関で聴いててにやにやしちゃった話とか、何故か時計が2分ずれてて第1部最後の"One Vision"が尻切れトンボになってた話とか、その辺は秘密ですよ!

www4.nhk.or.jp

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2. 猫ちゃん

フレディが愛猫に捧げる曲を書いた話は有名だと思うが、猫のために部屋をあつらえるくらい愛猫家だったので、映画にも猫が沢山登場する。何なら冒頭のスタッフロールでは、人間が出てくるより前に猫ちゃんがご登場する有様だ。癒やされたい人は猫目当てでどうぞ。因みに筆者はフレディの声が本当に魅力的だと思っているが、このねずみちゃんアイコンなのでそこだけは話が合わないだろうと思う(何の話や)。

www.youtube.com - 噂の『愛しのディライラ』

3. 日本通もきちんと再現

クイーン、特にフレディが日本好きで日本通でもあったことはよく知られた事実だと思う。残念ながら尺の関係で日本公演のシーンはカットされてしまったようだが、それでも映画にはそこかしこに日本に関係するグッズが見え隠れしている。フレディは部屋着として着物を着ているし、メアリー宅の隣に建てた自邸では、彼女の部屋から見下ろせるピアノ部屋に明らかな伊万里焼が置いてある。他にもミュンヘンの別宅には金閣寺のお札があったりなんだりして、そこまで再現しているとは思わなかったのでにんまりしてしまった。

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(181211追記:劇中で着物を着るフレディが観たければ、https://gqjapan.jp/culture/movie/20181109/bohemian-rhapsody/20世紀フォックス公式の写真がアップされている。)

 4. どうでもいいけれど

ミュンヘンの別宅でソロ活動の準備をするフレディは、次第にパーティと酒に狂うようになり、普段の喫煙量もどんどん増えていく。わたしは普段かなりの嫌煙家なのだが、実在の人を描く作品や時代劇では話は別なので、すぱすぱ吸ってがぶがぶ飲んでくれて素晴らしいとしか言いようが無い。

 

ま、こういう時に本物の煙草を吸わせるしかないというのが、未だに悲しいところではあるのだが……

 

5. 小ネタがいっぱい

と言うよりフレディ自身のエピソードが沢山ありすぎて全て小ネタになった気もしないではないけれど……(小声)

 

「ファルーク」の生い立ちもきちんと再現

フレディがヒースロー空港で働いていたというのは実話だ。この映画に合わせ、実際のスタッフがパフォーマンスを行ったこともニュースになった。

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彼が "Paki"(パキスタン野郎の意味)と散々詰られているのも時代を感じるところ。彼は実際パキスタン生まれでも無いけれど、それでもアジア系の顔だから一括りにして差別される*1。当時のイギリスは、それだけ非白人への偏見が根強かったのだ。その中でクイーンのリード・ヴォーカリストとして大活躍したフレディは明らかな特異点だと思う。彼は旧イギリス領の出身という点でもマイノリティだし、バイセクシュアルであることも然りで、そういったものを全てはねのけるカリスマ性や音楽性がクイーンにはあったのだろう。何だかその辺りはグレアム・チャップマン(隠していたけれどゲイ)やテリーG(元アメリカ人)を抱えるモンティ・パイソンと重なってしまった。

 

 

前身バンド「スマイル」は、何と再結成した

ブライアン・メイロジャー・テイラーが、クイーン結成前「スマイル」というバンドで一緒に活動していたのも実話らしい。メイが天文学者なのは知っていたのだが(だってJAXAにごり押ししてデータ貰ってリュウグウ立体写真作って大喜びしてたから)、テイラーが歯学生だったのは知らなかったのでめちゃくちゃ驚いた。ところで公式サントラに収録されているスマイルの曲は、わざわざこの映画のために脱退したヴォーカルを呼び寄せて再録したらしい……(逆に言えば、AIDSの治療法さえあればフレディもまだ健在だったということである)。

 

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フレディの自宅も細かく再現している

メアリーと同棲するようになったフレディが、ベッドのすぐ上に置かれたピアノで『ボヘミアン・ラプソディ』の伴奏を弾くシーンがあるが、実はあのセッティングも実話だったらしい。さすがにあのシーンは作為が過ぎたと思うが……

フレディの自宅シーンでは、玄関脇にマレーネ・ディートリッヒの写真が飾られていた。フレディも好きだったという彼女のビジュアルは、"Queen II"のジャケット写真にも影響を与えたという。細かい所までよく作り込まれているのが分かるエピソードでもある。

 

181211追記:ゲッティにあると噂だったのでディートリッヒの写真を探し出してみた。1932年の映画『上海特急』のワンシーンらしい。"Queen II"との縁についてはその次にある記事で。このビジュアルは『ボヘミアン・ラプソディ』のPVで再現されたが、その後も『レディオ・ガ・ガ』など、後年のPVでも再利用されるなどお気に入りのモチーフとなった。

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スタジオの撮影地

ライヴ・エイド直前、バンドとしての活動を再開したクイーンが練習をしているのは、ハムステッドのエア・スタジオにあるリンドハースト・ホール。たまたまなのだが『すばらしき映画音楽たち』('17)というドキュメンタリーに登場していて、「聖堂のような音が素晴らしい」と絶賛されていたスタジオだったので、個人的に喜んでしまった。この映画も良作。

 

 

 

ナチュラルなネタバレ込み】曲そのものの魅力

〜イギリスに綿々と流れる教養〜

個人的な話なのだが、クイーンの曲にはところどころメンバーの教養を窺わせるフレーズがある。例えば『ボヘミアン・ラプソディ』でプロデューサーにけなされる歌詞には、ナポリ出身の喜劇役者スカラムーシュの名前やアラーを讃える単語が登場したりする*2。更にこの曲は、フレディの趣味でもあったオペラをモチーフとしている(プロデューサーの前で流れるのは『蝶々夫人』の一節だ)。

 

"Radio Ga Ga"の歌詞に登場する "Through wars of worlds - invaded by Mars" は、ウェルズの『宇宙戦争』がラジオ放送されてパニックを起こした話を指している。イギリスのカルチャーは、得てしてそういう教養を大きな下地にしていたりするのが面白い。クリスティはマザーグースが大好きだったし、パイソンズなんかその最たるものだし、何かあるとシェイクスピアの一節が引かれてたりする。クイーンも、インドで寄宿学校に通っていたフレディですら、そういう教養は頭の中に叩き込まれているのだなあと思う。高学歴者があっさりカルチャーの方に進んでしまう辺りもかなり面白い国ではあるが……


〜サントラのお話〜


映画の公式サントラは、往時の代表曲を、ライヴ音源中心に集めた22曲になっている。クイーンの曲はあまり知らなくても、ワンフレーズくらいは聴いたことのある曲が割と入っている印象。因みにSpotifyなどで全曲ストリーミング可能である(という訳でここまで書き連ねながら絶賛ヘビロテ中である)。取り敢えず推しの曲だけ書き連ねていく。

 

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1. "20th Century Fox Fanfare"

誰かも書いてたけれどもうフォックスのタイトルの段階で最高だった。詳しい話は映画を観てのお楽しみ。

 

観た人はこの脚注をクリックしてもいいですよ(小声)*3

 

ライヴ・エイド演奏曲 - 17. "Radio Ga Ga"

この映画を観て1番心に刺さったのがこの曲だと思う。テレビの勢いに押され、メディアとして隅に追いやられつつあったラジオに対し、「君の時代があったんだ、どこかでまだ君を愛してる人がいる」と歌い上げる1曲。実はロジャー・テイラーがやっと書き上げたヒット曲でもある*4


今好きな音楽だって、元を辿れば多くが好きだったラジオ番組に行き着くくらい、ラジオはわたしの音楽歴を作る上で大きな存在だ。だからこそ、この曲が心に刺さったのだろうと思う。そう言えば『ボヘミアン・ラプソディ』も、「ラジオでこんな長い曲なんかかかるか」と喧嘩した過去があったんだっけ。ラジオはまだまだ元気だぞ!

 

因みにレディー・ガガの名前はこの曲に由来している。そんなガガ様とブラッドリー・クーパーがダブル主演のリメイク映画『アリー スター誕生』は12月公開で、こちらも良作のサントラに仕上がっているようなので、是非聴いてほしい。

 

 

ライヴ・エイド演奏曲 - 20. "We Are The Champions"

ライヴ・エイドというのは、イギリスとアメリカで交互にアーティストが演奏しつつ、その様子を世界中に生中継し、その収益で飢餓に苦しんでいたアフリカを助けようという慈善ライヴだった。その舞台でこの曲が使われる意味よ、と思ってしまう。


勿論、この際演奏された曲はクイーンの最も成功した曲を中心に選ばれており、この曲が選ばれるのも至極当然なのだが、「誰も敗者ではない、僕らは勝者だ」と歌い上げる歌詞は、貧困に苦しむアフリカを勇気づける上で強いメッセージを持つ。色々な意味でマイノリティであるフレディの成功も印象づける曲だし、何となく「このままで生きていてもいいんだ」という決意な気もしないではない。


ところでブライアン・メイは、この曲を自身の勝利宣言で使ったトランプに対し、金輪際使ってくれるなと抗議をしたらしい。何ともトランプとイギリス人らしいエピソードだなあと思うばかりである(笑)(トランプもトランプで歌詞の意味をよく分かってなさそうな気がする)。

www.huffingtonpost.jp

今回の映画には、元々クイーンを好きになったきっかけである曲もちゃんと使われていた。その辺りはクイーンと映画という切り口で、もう1記事書いてみたいと思う。

ついでに

そう言えば冒頭でJohn Lewisのクリスマスアドを紹介したが、今年のエルトン・ジョン版もなかなかに泣かせに来るので是非観てほしい*5

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181212追記: そう言えば『ボヘミアン・ラプソディ』は、20世紀の音楽で再生回数ナンバーワンになったらしい!映画がかなり後押ししたようだ

 

190223追記:

素晴らしい記事なので紹介させてください! クイーンの現在の版元、ユニバーサルミュージックに迫ったTHE RIVERさんの超良質記事。書きながら"Love of My Life"を聴いていた筆者は泣きそうになってしまいました……

theriver.jp

 

関連:クイーン / ラミ・マレック / グウィリム・リー / ジョー・マッゼロ / ベン・ハーディ / ルーシー・ボイントン / 音楽映画

*1:どっかの無茶苦茶レビューでここが随分噛みつかれてたけど、これはそういう演出だし脚本陣もパキスタン生まれじゃないことくらい知ってるぜ - 雨宮夏樹@黒鯖 on Twitter: "す、すげえ無茶苦茶 そしてさりげブライアンがめちゃめちゃdisられてる

ふぁじっこあなみ on Twitter: "これ結構熱量多くてしんどいよね、こないだの「フレディはパキじゃねえよ」って息巻いてたレビューって実はこれなんだけども>RT"

*2:そう言えば歌詞には"Thunderbolt and lightning / Very, very frightening me"と出てくるのだが、これはあの規格に何か影響してるのだろうか

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*3:

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*4:181217追記:正確には彼が印税を稼ぎ出した曲として、劇中散々ネタにされている「車の歌」があるのだが("I'm In Love With My Car")、これは実のところ『ボヘミアン・ラプソディ』のカップリングだったために高い印税を稼ぎ出した曲なので、曲そのものの力かというと微妙なところがある。

この曲はテイラーがリードヴォーカルを務める珍しい曲。確かプロデューサーか誰かの愛車に対する偏愛を歌った曲だ。ドラムスどこどこだけと言えばそんな気もするが、筆者は割とすき

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*5:ところで、これを検索しようとしたら下世話な記事が出て来て——げふんげふん。

www.independent.co.uk

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